レースレポート

グランドファイナルへの切符を懸け、精鋭たちが集結

グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022 ネイションズカップ - ワールドファイナル

モナコ・モンテカルロ(2022年11月25日)– グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022の最終章は、ネイションズカップのリージョンファイナルで幕を開けました。3年ぶりとなるワールドファイナルのライブイベントに挑むため、世界14カ国から30名の最速ドライバーたちがモンテカルロ ベイ ホテルのスポーツコンプレックスに集結。この日行われるリージョンファイナルと敗者復活戦の結果によって、イベント最終日の日曜日夜に行われるネイションズカップ グランドファイナルのスターティンググリッドが決まります。出場選手はまず各10名で構成される3グループ(アジア/オセアニア地区、欧州/中東/アフリカ地区、北米/中南米地区)に分かれてリージョンファイナルを戦い、各レースの上位3名が日曜日に行われるグランドファイナルに進出。4位から7位までは敗者復活戦へと進み、その上位3名が残りのグランドファイナルへの切符を獲得します。

ワールドシリーズポイントはブラジルのイゴール・フラガ 選手(IOF_RACING17)が7ポイントでトップに立ち、フランスのキリアン・ドルモン選手(PRiMA_Kylian19)が6ポイントで2位に続きます。しかし、リージョンファイナルでは前回よりも多くのポイントが付与され、さらにグランドファイナルではそれを上回るポイントを得られるため、どの選手にも優勝の可能性が残されており、リージョンファイナルは手に汗を握る迫力満点の展開となります。

リージョンファイナル(アジア/オセアニア地区):ワトキンズ・グレン ロングコース

アジア/オセアニア地区のグランドファイナル進出者が決定する、この日最初のレース。予選で際立った活躍をみせた日本人ドライバー勢が、ワトキンズ・グレンを舞台に繰り広げられる17ラップのレースでトップ5のグリッドポジションを獲得します。2020年ネイションズカップ王者の宮園拓真選手(Kerokkuma_ej20)は、フェラーリ 330 P4 '67でポールポジションを獲得。フロントローには鈴木聖弥選手(V1_CRV-KRT86)、セカンドローには山中智瑛選手(yamado_racing38)、川上奏選手(SG_Kawakana)が並びました。そして唯一の女性ドライバーであるエミリー・ジョーンズ選手(emreeree)を含むオーストラリア代表2名、ニュージーランド代表2名、そして香港代表1名が残るポジションを占めます。

全ドライバーが最低でも1ラップずつはソフトとミディアムの両タイヤを使う義務があるため、ピットストップ戦略は結果に大きな影響を及ぼします。そのため、上位4名はスピードの速いソフトコンパウンドのミシュランタイヤを選択し、序盤からリードを広げようとします。

上位の選手たちはローリングスタートでクリーンなスタートを切り、4名の日本人選手を先導するように宮園が第1コーナーを駆け抜けます。しかし、オーストラリアのガイ・バーバラ選手(Dstinct_Twitchy)が乗るフェラーリはリアエンドが振られてスピンしてしまい、第1コーナーでガードレールに激突するなど、古いレーシングカーの操縦がいかに繊細かを思い知らされることになりました。

そして予想していたとおり、ソフトタイヤを装着した上位4名は後続を引き離しにかかり、4ラップ目中盤にはリードを2.0秒に広げました。いっぽうで、ジョーンズはサイモン・ビショップ選手(sidawg2)をオーバーテイクし、さらに1ラップ後にはマシュー・マキューエン選手(AE_McEwen)も抜いて6位に浮上します。

日本人ドライバーの間でも大きな動きが見られました。6ラップ目には山中が第1コーナー進入時に鈴木をオーバーテイクし、8ラップ目に行われた最初のピットストップでは山中、鈴木、川上はソフトからミディアムに、國分諒汰選手(Akagi_1942mi)はソフトタイヤに交換。レースを先導する宮園は次のラップでピットに入り、2.2秒の差をつけて1位でコースに復帰しました。

11ラップ目には上位グループで唯一ソフトタイヤを装着していた國分が川上を追い抜いて4位に浮上、3位の鈴木との差も5.0秒まで縮まりました。しかし、この戦いは簡単に決着がつきません。15ラップ目の第1コーナーで鈴木は國分に追い抜かれましたが、ラストの3ラップでは決勝進出を賭けて激しいバトルを展開。何度も順位を入れ替え、何度もペイントを交換しながら混戦を繰り広げていきます。これは最も清々しく手に汗を握るレースだったといえるでしょう。

國分と鈴木の対決は最終3コーナーで決着がつきます。國分諒汰選手は「トウ」と呼ばれる第7コーナーでインに滑りこみライバルの前に躍り出ると、グランドファイナルへの切符を獲得。また、優勝した宮園拓真選手、そして2位につけた山中智瑛選手もグランドファイナル進出を決めました。

レース後の宮園拓真選手:「昨日 (TOYOTA GAZOO Racing GT Cup) は散々な結果だったので、今日は勝ててホッとしています。レース中は全然落ち着かず、どこかでミスをしてしまうのではと不安でした。この勝利の勢いをグランドファイナルにつなげたいと思います」。

Rank Driver Time
1 宮園 拓真 Kerokkuma_ej20 29:51.845
2 山中 智瑛 yamado_racing38 +01.478
3 國分 諒汰 Akagi_1942mi +05.116
4 鈴木 聖弥 V1_CRV-KRT86 +05.666
5 川上 奏 SG_Kawakana +10.169
6 マシュー・マキューエン AE_McEwen +10.408
7 エミリー・ジョーンズ emreeree +12.498
8 サイモン・ビショップ sidawg2 +15.886
9 ガイ・バーバラ Dstinct_Twitchy +20.756
10 ジョナサン・ウォン saika159- +23.748

リージョンファイナル(欧州/中東/アフリカ地区):モンツァ・サーキット

欧州/中東/アフリカ地区のリージョンファイナルは、北イタリアに位置する伝説の高速サーキット、モンツァ・サーキットが舞台となります。レーシングカーもイタリア製のランボルギーニ ランボ V12 ビジョン グランツーリスモを採用。他のレースと同様、この18ラップのレースで全ドライバーは最低でも1ラップずつはソフトとミディアムの両タイヤを使う義務があります。ポールポジションを獲得したのはフランスのトーマス・ラブトレー選手(Aphel-ion)、2番手にスペインの人気ドライバーであるコケ・ロペス選手(coquelopez14)が続くというサプライズもありました。セカンドローには昨年のネイションズカップ王者であるイタリアのヴァレリオ・ガロ選手(Williams_BRacer)と新鋭のサルサン・シーラン選手(VQS_Coyote7)が並びました。

優勝候補の1人であるスペインのホセ・セラーノ選手(TDG_JOSETE)は、10番グリッドと最下位からのスタート。

上位3名はソフト、それ以外はミディアムタイヤでスタートとなります。グリーンライトが点灯すると、ガロが第1・2コーナー(バリアンテ・レティフィーロ)で猛チャージを開始。第3コーナー(クルヴァ・グランデ)でラブトレーをオーバーテイクしてトップに立つと、ロペスもガロに続いてラブトレーを追い抜きます。さらに後方では、ルーキーのドルモンがクルヴァ・ディ・レズモでシーランに突き飛ばされ、4位から9位へ転落。いっぽうでセラーノは1台1台確実に仕留めていき、1ラップ目で順位を4つも上げることに成功します。

ビジョン グランツーリスモのスペシャルマシンはフロントストレートで時速350kmにも達し、1ラップを終えた時点での順位はガロ、ロペス、ラブトレー、チェコのニキータ・モイゾフ選手(ERM_Nick)となっています。第1コーナーを通過する際、ロペスはブレーキングが遅れてミスをしたように見えましたが、うまく挽回するとガロを抜いて総合首位に立ちます。

6ラップ目には、ロペス、ガロ、ラブトレーと他のドライバーとの差は約7.0秒に広がりましたが、中団を走る選手たちはまだソフトコンパウンドのミシュランタイヤを装着していたため、十分に巻き返しを狙える距離にいます。7ラップ目の最初のピットストップでは、ドルモンとフランスのバティスト・ボボア 選手(R8G_TSUTSU)がミディアムからソフトタイヤに交換。次のラップでは3位のラブトレーなど、さらに多くのドライバーが入りましたが、上位2名はコース上に残りました。

9ラップ目にはロペスとガロが2.5秒のリードを保った状態でコースに復帰し、さらにリードを広げていきます。その後の数ラップでは、ラブトレー、ドルモン、ボボアのフランス人ドライバー3名による激しい3位争いが繰り広げられました。13ラップ目ではボボアが一時コントロールを失ってコースアウトしたことで0.5秒のペナルティを課され、セラーノに先行を許してしまいます。これに対して怒りをあらわにしたボボアは14ラップ目後半、クールヴァ・アルボレートから続くフロントストレートでセラーノ、ドルモン、ラブトレーを一気に抜き去り、3位へと浮上します。

その後の順位はほぼ変わらず、コケ・ロペス選手が快勝、ヴァレリオ・ガロ選手が単独2位でフィニッシュラインを通過。バティスト・ボボア 選手は苦戦の末3位を獲得し、グランドファイナルへの出場権をつかみ取りました。

レース後のコケ・ロペス選手:「シーズン序盤はひどい成績でしたが、ここに来てペースを上げることができました。ベストを尽くして戦うことができて満足しています。今日はすべてが予想通りにうまくいったので、とにかくハッピーです」。

Rank Driver Time
1 コケ・ロペス coquelopez14 28:11.378
2 ヴァレリオ・ガロ Williams_BRacer +01.482
3 バティスト・ボボア R8G_TSUTSU +06.352
4 ホセ・セラーノ TDG_JOSETE +07.687
5 トーマス・ラブトレー Aphel-ion +09.136
6 キリアン・ドルモン PRiMA_Kylian19 +10.569
7 ニキータ・モイゾフ ERM_Nick +14.712
8 ジョルジョ・マンガーノ Williams_Gio +19.929
9 ニコラス・ロメロ ERM_NicoRD +29.762
10 サルサン・シーラン VQS_Coyote7 +44.923

リージョンファイナル(北米/中南米地区):インテルラゴス・サーキット

最後のリージョンファイナルは、ブラジル、チリ、アメリカの3カ国が強力なラインナップでレースに挑みました。この中には、前日に開催された「TOYOTA GAZOO Racing GT Cup」で優勝した2018年ネイションズカップ王者、イゴール・フラガ選手(IOF_RACING17)の姿もあります。一時はネイションズカップのポイントリーダーでもあったフラガは優勝候補でしたが、同じブラジル出身のルーカス・ボネリ選手(TGT_BONELLI)、アドリアーノ・カラッツァ選手(Didico__15)、アーサー・モッソ選手(GRID_ART55MN)らを抑えて見事な走りをみせました。このレースは、ブラジルのサンパウロにあるインテルラゴス・サーキットでの開催、ホームグラウンドという点も彼らにとっては有利となったでしょう。

ブラジル人選手たちは、F1史上最も成功したレーシングカーの1つであるマクラーレン MP4/4を使用。1988年に世界チャンピオンに輝いたブラジル人ドライバー、アイルトン・セナ氏へのオマージュとしてレースを行いました。前のレースと同様、この22ラップのレースでは全ドライバーは最低でも1ラップずつはソフトとミディアムの両タイヤを使う義務があったため、ピットストップ戦略が最大限に駆使されました。

そんなブラジル勢を尻目に、チリのアンゲル・イノストローザ選手(YASHEAT_Loyrot)が予選を突破し、ポールポジションを獲得。2番手にはボネリ、セカンドローにはカラッツァとチリのファビアン・ポルティラ選手 (Mobil_PerroLoco) が入り、シリーズリーダーであるフラガは5番手からのスタートとなりました。

スタンディングスタートのため、10台がほぼ同時に第1コーナーに飛び込むというドラマチックな展開になります。トップのイノストローザは難なく通過しましたが、カラッツァはトラフィックに巻き込まれて6位まで後退。ポルティラが3位、フラガは4位へと浮上しましたが、ポルティラにはバンプのペナルティが課せられ、戦線離脱となります。

4ラップ目にはトップを走るイノストローザは2位のボネリに4.0秒もの差をつけ、並々ならぬ強さを見せつけます。3位にはフラガ、4位にはアメリカの新鋭ディーン・ヘルト選手(PRiMA_Deano)が続きました。6ラップ目に入ると、フラガがデシダ・ド・ラゴ(第4・5コーナー)でボネリを華麗にオーバーテイクし、2位に浮上します。

イノストローザは10ラップ目の終盤にピットインし、ソフトからミディアムタイヤに交換します。そしてカラッツァ、ヘルトと続き、11ラップ目にはボネリ、12ラップ目にはフラガとモッソがピットイン。彼らがコースに戻った時にはすべてのドライバーがピットストップの義務を果たしており、イノストローザ、フラガ、ボネリの順で走行します。

いっぽう、ソフトタイヤを装着したカラッツァとモッソは徐々に順位を上げ、17ラップ目にはそれぞれ4位と5位に浮上。その2ラップ後には、新人のモッソがバックストレートでベテランのカラッツァに仕掛け、4位へと順位を上げました。

レース終盤は順位に変動はなく、そのままアンゲル・イノストローザ選手が優勝し、大きな存在感を示しました。2位でフィニッシュしたイゴール・フラガ選手はチャンピオンシップではリードを維持しましたが、ネイションズカップで初連覇を達成するには、グランドファイナルでベストなパフォーマンスを見せなければならないことを十分理解していました。グランドファイナルへの最後の出場権を獲得したのはルーカス・ボネリ選手でした。

レース後のアンゲル・イノストローザ選手:「ミディアムタイヤではうまく走行できず、コース上で数回ミスをしてしまいました。このクルマはターボラグが大きいのでコーナーでドリフトしてしまいましたが、最終的に優勝することができたので満足しています。ネイションズカップのライブイベントでは初めての優勝だったのでとても興奮しています」。

Rank Driver Time
1 アンゲル・イノストローザ YASHEAT_Loyrot 29:23.600
2 イゴール・フラガ IOF_RACING17 +00.824
3 ルーカス・ボネリ TGT_BONELLI +10.308
4 アーサー・モッソ GRID_ART55MN +15.039
5 アドリアーノ・カラッツァ Didico__15 +17.020
6 ディーン・ヘルト PRiMA_Deano +20.349
7 マルティン・マルザ TENTFS_Papo2514 +24.899
8 ロベルト・ハック Robby--Heck +36.540
9 マーク・ピネル Turismo-lester +39.771
10 ファビアン・ポルティラ Mobil_PerroLoco +50.671

敗者復活戦:ウィロースプリングス・レースウェイ ビッグウィロー

リージョンファイナルでトップ3に入ることができなかった12名のドライバーには、日曜日に行われる敗者復活戦に出場するチャンスが与えられました。このレースで3位以内に入れなかった場合、2022年のネイションズカップ優勝への挑戦は終わりを告げることになります。18ラップのスプリント会場は、南カリフォルニアに位置する超高速サーキット、ウィロースプリングス・レースウェイ。ドライバーたちは、それぞれの国のカラーに塗られたスズキ V6エスクード Pikes Peak Specialのハンドルを握りました。ちなみにこのクルマとコースは、ネイションズカップ予選時にドライバー全員が使用したものと同じもの。ピットストップの必要はありませんでしたが、ソフトタイヤの耐摩耗性が低いため、ピットストップを必要とするレースになりました。

1ラップ目を終えると、日本の鈴木聖弥選手がブラジルのアーサー・モッソ選手とスペインのホセ・セラーノ選手をわずかにリードしましたが、上位3名の差はわずか1秒だったため、走順は変動すると予想。さらに、日本の川上奏選手、フランスのトーマス・ラブトレー選手、ブラジルのアドリアーノ・カラッツァ選手、ニュージーランドのマシュー・マキューエン選手、フランスのキリアン・ドルモン選手らの集団は、トップと1.5秒ほどの差をつけられて走行していました。

その後、数ラップにわたって激しい3位争いが繰り広げられました。鈴木とセラーノが後続を引き離す中、川上、カラッツァ、モッソが3位争いに加わります。8ラップ目に川上がピットインしソフトタイヤに交換すると、この争いは一旦終了。その後、トップを走る鈴木がピットインし、その1ラップ後にセラーノもピットイン。レース中盤を過ぎたところでコースに戻ると、グリッド上の全ドライバーがピットストップの義務を果たしており、鈴木、セラーノ、川上、カラッツァの走行順となりました。

最後の2ラップでは、カラッツァが川上を猛追し3位のポジションを狙います。そして第2コーナーのスイーパーでついに川上を追い抜き、そしてアルゼンチンのドライバー、マルティン・マルザ選手(TENTFS_Papo2514)も川上を追い抜きました。最終ラップでは、ホセ・セラーノ選手が鈴木聖弥選手を懸命にオーバーテイクしようとしましたが、鈴木はこれを抑えて優勝。アドリアーノ・カラッツァ選手は、終盤に大胆な追い上げを見せ3位となり、ワールドファイナルの最終枠を獲得しました。

レース後の鈴木聖弥選手:「この大会に挑むにあたって大きなプレッシャーを感じていました。他の選手へのリスペクトを忘れず、良い成績を残したいと思っていました。目標はグランドファイナルに進出することだったので、今はとても幸せです」。

Rank Driver Time
1 鈴木 聖弥 V1_CRV-KRT86 18:55.320
2 ホセ・セラーノ TDG_JOSETE +00.355
3 アドリアーノ・カラッツァ Didico__15 +02.335
4 マルティン・マルザ TENTFS_Papo2514 +03.250
5 川上 奏 SG_Kawakana +05.103
6 トーマス・ラブトレー Aphel-ion +05.261
7 マシュー・マキューエン AE_McEwen +07.776
8 キリアン・ドルモン PRiMA_Kylian19 +08.917
9 エミリー・ジョーンズ emreeree +09.488
10 ニキータ・モイゾフ ERM_Nick +14.131
11 アーサー・モッソ GRID_ART55MN +21.993
12 ディーン・ヘルト PRiMA_Deano +23.441