ニュル24時間レース2010 レースレポート(3/3)
ナイトセッションでの明暗
王者マンタイが去ると、近年見られなかった熾烈なトップ争いが始まりました。夜明けまで死闘を繰り広げたのは、ゼッケン99のアウディR8 とゼッケン9の911ハイブリッド。両車はともに8分50秒台のハイペースで飛ばしますが、午前5時過ぎ、R8のリアアクスルにトラブルが発生し、バトルに終止符が打たれます。
日本勢はスタート以来、大きなトラブルもなく順調に走行を続けてきましたが、夜11時過ぎ、ドイツ人ドライバーの駆るLFA(ゼッケン51)のパワートレインに異常が発生、マシンはパドックへと運び出されてしまいます。よもやリタイアかと思われましたが、チームはテントで懸命の修理を開始しました。午前0時の時点で日本勢はファルケンZが総合21位(クラス5位)、ゼッケン50のLFAが総合42位(クラス2位)、インプレッサが総合37位(クラス5位)という状況です。
視界が心配されていた「ワールド・カー・アワード」チームのナイトセッション。チームはヘッドライトの配光を補うために大型のドライビングランプを追加し、ドライバーの不安を劇的に軽減しました。マシンは深夜1時半にマフラーのマウントゴムを交換した以外はコンディションをキープ。コース上に車両が分散した効果もあり、IS Fは昼間より速いラップタイムで順位を上げていきます。
もっとも気温が下がる夜明けには、3度目のスティントとなった山内がハードアタック、ファステストラップを9分48秒943まで短縮しました。この結果総合順位は62位、クラス順位も5位に上がり、はるか先にいた4位のアウディR8(ゼッケン49)を射程に収めたのです。
決勝出走198台。リタイア75台。
ニュルブルクリンクの夜明け。それは暗黒の山岳コースを戦い抜いたマシンだけが見られる祝福の光です。そんな朝日を浴びてトップを快走し続けるのは911ハイブリッド。これにゼッケン99から勝負を託されたゼッケン2のアウディR8 LMSが追いすがります。
ゴールまであと7時間となった午前8時。「ワールド・カー・アワード」チームにニュースが飛び込みます。追い上げていた同じSP8クラスのアウディR8がクラッシュ、フロントを大破したのです。IS Fは争わずしてクラス4位へとポジションアップ。ピットはまさかの事態に沸きかえります。
午前9時、オーウェン選手が無線でクルマの異常なバイブレーションを伝えてきました。原因はフロントスポイラーの破損。チームはタイラップなどでスポイラーを補強し、再びマシンを送り出します。次のピーター選手の交代時に結局スポイラーを交換しますが、マシン自体は順調そのもの。「マシンは快調です!」という無線がドライバーから届くたびに、チームはゴールが着実に近づいていることを実感します。
一方、総合優勝争いのドラマはまだ終わってはいませんでした。午前10時半、911ハイブリッドを追いかけていたゼッケン2のアウディR8 LMSがマンタイ・ポルシェと同じ場所でリタイア。いよいよ911ハイブリッドが勝利に王手をかけたかに見えました。ところがゴールまであと2時間という午後1時。その911ハイブリッドがエンジントラブルからまさかのスローダウン。コースを大観衆のため息が地鳴りのように響き渡ります。ポルシェが誇る最新モンスターのデビューウインは消え去りました。22時間を経てトップに立ったのは、スタート以来ひたすらチャンスをうかがってきたBMW M3 GT2(ゼッケン25)です。
5月16日午後3時。長かった24時間が終わりました。全周25kmの観客が総立ちとなり、24時間を戦い抜いたマシンを称えます。総合優勝は残り2時間を堅実に走りきったBMW M3 GT2(ゼッケン25)。ALMSで鍛えぬいた耐久のノウハウを活かしきりました。日本勢ではファルケン・モータースポーツのフェアレディZが総合12位(SP7クラス3位)、レクサスLFA(ゼッケン50)が18位(SP8クラス優勝)、STIのスバル・インプレッサが24位(SP3Tクラス4位)とかつてない健闘を見せました。
「ワールド・カー・アワード」チームも全員がピットレーンの金網によじ登り、オーウェン選手の駆るマシンを喝采で出迎えます。決勝出走数198台、リタイア75台。そんな過酷なレースで、レクサスIS Fは総合59位、クラス4位という成績を収めたのです。
「レースを通じて、バーチャルな世界での経験がどれほど実効性を持つか確かめたい」。昨年山内は参戦理由をこう語りました。初参戦で入賞という快挙をもたらした現実のニュル24時間レースは、きっとそれ以上の収穫を山内にもたらしたに違いありません。

混乱を制してBMWに5年ぶりの総合優勝をもたらしたM3 GT2(ゼッケン25)。24時間で154ラップ、3908kmあまりを走破した。これはアメリカ大陸ワシントンDC-ラスベガス間横断に匹敵する距離だ

木下隆之、飯田章、脇阪寿一、大嶋和也という4人の日本人ドライバーによって見事SP8クラス2連勝を達成したLFA(ゼッケン50/総合18位)。ゼッケン51のマシンは11時間の大修理を経てコースに復帰したが完走扱いとならなかった

戦うVW、シロッコは今年AT(代替パワートレイン)というクラスに出場して1-3位を独占、3年連続のクラス優勝を果たした(ゼッケン117/総合16位)。天然ガスを使用するエンジンは今年330psまでパワーアップ。9分4秒710というFF車の最速ラップタイムも記録している

「グランツーリスモ」ファンにはおなじみ、「GTアカデミー」で欧州GT4選手権を戦うRJNモータースポーツも370Zで完走を果たした(ゼッケン64/SP7クラス10位)。ドライバーとしてアレックス・バンコム選手が参加した