レースレポート

過酷な気象状況の下、大胆なレース戦略が今年の勝敗を決める

グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022 マニュファクチャラーズカップ - ワールドファイナル

モナコ・モンテカルロ(2022年11月26日)– グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022の今年度チャンピオンを決定するマニュファクチャラーズカップ ワールドファイナルが開催されました。会場となったモンテカルロ ベイ ホテルのスポーツコンプレックスには、世界各国から36名のドライバーが集結。ドライバーたちは12のマニュファクチャラーズチームに分かれて戦いを繰り広げます。なおこのファイナルは出身地域の異なるドライバー3名で1つのチームを構成し、3名全員が最低でも1ラップはステアリングを握るレギュレーションとなっているため、チームワークが重要な鍵を握る戦いとなります。

マニュファクチャラーズカップ ワールドファイナルは、2レースで構成されています。グランドファイナルではダブルポイントを獲得できるため、ほぼすべてのチームに優勝の可能性があります。トヨタとスバルが同点(10ポイント)でトップ、メルセデスAMGが7ポイントで3位、マツダが5ポイントで4位につけています。

レース1:ディープフォレスト・レースウェイ 逆走

開幕戦は人気のディープフォレスト・レースウェイを舞台にした20ラップのレースで、全ドライバーがコースを逆方向に走行するスタイルを採用。このレースでは、ハード、ミディアム、ソフトの3種類のタイヤを使う義務があり、またドライバー交代も2度行われるため、最低でも2回のピットストップが必要となります。

レース1のポールを獲得したのは、シリーズ未勝利ながら3名の実力派ドライバーを擁するポルシェ。ポルシェ 911 RSR (991)を駆るトップドライバー、ホセ・セラーノ選手(TDG_JOSETE)とフロントローを分け合うのは、トヨタ GRスープラ レーシングコンセプトの國分諒汰選手(Akagi_1942mi)です。次いで、ジェネシス X GR3に乗り込むニコラス・ロメロ選手(ERM_NicoRD)、そしてフォルクスワーゲン ビートル Gr.3で挑むトーマス・ラブトレー選手(Aphel-ion)が並びます。全グリッドはミディアムとハードタイヤでレースをスタートし、ソフトタイヤはレース中盤または終盤用に確保することを選択しました。

ローリングスタートで幕開けしたレースは、第1コーナーのスイーパーから始まり、タイトなヘアピンで各車が順位を競い合う展開となりました。ジェネシスはメルセデスAMGのルーカス・ボネリ選手(TGT_BONELLI)に衝突されコースオフし、8位まで順位を落とします。いっぽうで、ボネリはスバルをオーバーテイクして4位に浮上。ポルシェとトヨタが少しずつ差を広げる中、フォルクスワーゲン、メルセデスAMG、スバルの3台による3位争いが激化。ボネリは2ラップ目にポジションを一時的に獲得したものの、1ラップ目に起こしたジェネシスとの接触で2.0秒のペナルティを課せられ、結果として2つポジションを落としました。

スバルのように、このコースには不向きとされるレーシングカーがあります。パワフルなクルマにはストレートでは全く歯が立たないためです。この2ラップで追い上げたジェネシスは、2台をオーバーテイクし、5位のボネリのメルセデス AMG GT3に迫ります。現時点で最も大きな動きを見せているのは、奥本博志選手(HIROGRAND_1009)がドライブする日産 GT-R ニスモで、11位からスタートし7位に浮上しています。

最初のタイヤ交換とドライバー交代は6ラップ目に行われ、ほとんどのチームがピットストップを行いました。ポルシェ、フォルクスワーゲン、スバルはスピードの速いソフトタイヤを、トヨタとメルセデスAMGは耐久性の高いミディアムタイヤを選択するという、異なるレース戦略となりました。この戦略の差は、バックストレートエンドで鈴木聖弥選手(V1_CRV-KRT86)のフォルクスワーゲンがトヨタのイゴール・フラガ選手(IOF_RACING17)をオーバーテイクし、その2コーナー後にキリアン・ドルモン選手(PRiMA_Kylian19)のスバルがトヨタに接触したころから明確に現れてきます。いっぽう、ポルシェのアンゲル・イノストローザ選手(YASHEAT_Loyrot)はリードを4.0秒に広げます。

残り8ラップとなったところで、トヨタとメルセデスAMGが最終ピットストップを行い、ソフトコンパウンドのミシュランタイヤに交換し全力でゴールを目指します。レースリーダーであるポルシェ、フォルクスワーゲン、スバルは14ラップ目にピットストップを行い、装着しているミディアムタイヤでミシュランタイヤを振り切ろうとします。

ポルシェの佐々木拓眞選手(LG-TakuAn_)は、残り5ラップとなったところで6.0秒近いリードを広げてコースに復帰。ミスをしなければ、ポルシェに今シーズン初となる勝利をもたらすポジションにつけています。スバルのダニエル・ソリス選手(PRIMA_LAMB)は運を味方につけられず、ニキータ・モイゾフ選手(ERM_Nick)がハンドルを握るトヨタに抜かれて4位。その1ラップ後にはメルセデスAMGにも追い抜かれます。

最後の3ラップでは、ロベルト・スターンバーグ選手(Energy_Amarok_23)のドライブするトヨタがフォルクスワーゲンに迫り、抜き去るタイミングを見計らいます。ついに18ラップ目でトヨタがビートルを抜き、さらにその1ラップ後にはメルセデスAMGもフォルクスワーゲンをオーバーテイク。フォルクスワーゲンは表彰台から姿を消すことになりました。

最終的には、ポルシェが単独でゴールラインに到達。優勝とそれに伴う12ポイントを獲得して、シリーズ最下位から4位に浮上しました。2位のトヨタは10ポイントを獲得してシリーズリードを広げ、メルセデスAMGは3位に入りました。

レース後のアンゲル・イノストローザ選手(ポルシェ):「レースを終えた今、最高の気分です。スープラは最高速度が速いので、トヨタが背後にいたときは少し不安でした。ホセと18歳ドライバーの佐々木拓眞が素晴らしい走りを見せてくれて、これは皆で勝ち取った勝利だと思います」。

Rank Manufacturer / Drivers Time
1 ポルシェ アンゲル・イノストローザ / ホセ・セラーノ / 佐々木 拓眞 29:06.106
2 トヨタ ニキータ・モイゾフ / 國分 諒汰 / イゴール・フラガ + 03.608
3 メルセデスAMG ルーカス・ボネリ / バティスト・ボボア / 坪井 俊介 + 15.219
4 フォルクスワーゲン 鈴木 聖弥 / ロベルト・スターンバーグ / トーマス・ラブトレー + 15.500
5 スバル キリアン・ドルモン / ダニエル・ソリス / 宮園 拓真 + 22.828
6 ジェネシス 佐々木 唯人 / ニコラス・ロメロ / ディーン・ヘルト + 24.754
7 ホンダ ヴァレリオ・ガロ / ジョアン・ペソア / マシュー・マキューエン + 36.502
8 レクサス クィンテン・ジュール / ドノバン・パーカー / 川上 奏 + 37.106
9 マクラーレン コンスタンティノス・コンスタンティノウ / 今里 駿斗 / イーサン・リム + 45.330
10 BMW ホセ・ブレア / 小高 侑己 / ランドール・ヘイウッド + 48.513
11 日産 マテオ・エステベス / メヒディ・ハフィディ / 奥本 博志 +1:06.052
12 マツダ 鍋谷 奏輝 / ジョルジョ・マンガーノ / アンドリュー・ブルックス DNF

グランドファイナル:スパ・フランコルシャン

シリーズのファイナルレースは消耗戦となります。スパ・フランコルシャンでの30ラップのレースは雨に見舞われるとの気象予報だったため、各チームは戦略の再調整を余儀なくされます。ポールポジションは前戦優勝のポルシェ 911 RSR (991)の佐々木拓眞選手、2番手はトヨタ GRスープラ レーシングコンセプトのイゴール・フラガ選手。セカンドローにはメルセデス AMG GT3のルーカス・ボネリ選手、そしてフォルクスワーゲン ビートル Gr.3の鈴木聖弥選手が並びました。

小雨がぱらつく中、トヨタはウェットタイヤでスタート。レース序盤での激しい雨を予想した行動でしょう。しかし他チームはミディアムタイヤを装着して控えめに走行します。

2ラップ目には早くもトヨタの作戦が裏目に出ました。予想していた激しい雨は降らず、フラガのトヨタ GRスープラは他のクルマに対して速度が低下。この時点で、ポルシェ 911 RSR (991)はトヨタに2.0秒ものリードを広げ、メルセデスAMGは3位を維持。メルセデス AMG GT3は3ラップ目にスープラを追い抜きます。ソリスがハンドルを握る5番手スタートのスバル BRZ GT300は、トヨタ GRスープラのすぐ後ろにつけ4位。そしてレ・コーム (第7、8、9コーナー) で果敢にトヨタを攻め、ついにスバルが3位に浮上します。

7ラップ目、フラガがピットに飛び込むと、ウェットタイヤからハードコンパウンドのミシュランタイヤに交換。当初のトヨタの戦略には疑問が残りましたが、フラガは称賛に値するパフォーマンスをしたといえるでしょう。その後、モイゾフが順位を上げていきます。そして次ラップでは複数のチームがハードタイヤに交換し、ドライバー交代を行いました。

9ラップ目では、ポルシェ、メルセデスAMG、スバルの上位グループが最初のピットストップ。また、シリーズ史上最も派手なスピンが発生してしまいます。マツダ RX-Visionのハンドルを握るアンドリュー・ブルックス選手(PX7-Deafsun)は、滑りやすいコース上でラブトレーが運転するフォルクスワーゲン ビートル Gr.3を追い抜こうとした瞬間にコントロールを失い、6回転半(2340度)の大スピンを起こしてタイヤバリアに衝突。これに巻き込まれたフォルクスワーゲンもスピンしてバリアに激突してしまいます。

澄み切った空の下、トヨタは戦略的ミスを素早く修正し、高速で安定したペースを維持。11ラップ目のケメルストレート で2位に浮上しました。いよいよレースは残り3分の2。イノストローザが運転するポルシェ 911 RSR (991)との差は、約6.5秒となっています。

そして、イノストローザが珍しくドライビングミスをするという、予想外の事態が発生。滑りやすい縁石に乗り上げてスピンしてしまい、グラベルに進入。首位から一瞬にして4位に転落します。このミスでトップに躍り出たのはトヨタ、そして佐々木唯人(TRUST-T78-33D)がハンドルを握るジェネシスと続きます。レース中盤の時点では、トヨタ、ジェネシス、日産、ポルシェ、メルセデスAMG、スバルの順で走行しています。

17ラップ目には、再び雲行きが怪しくなってきます。上位グループが19ラップ終了時点でミディアムタイヤに交換してスタート時と同程度の雨量を予想していたのに対し、メルセデスAMG、スバル、フォルクスワーゲンはより激しい雨を予想してウェットタイヤを選択します。

雨足が強くなる中、スバルのドルモンがメルセデスAMGのボボアを追い抜き、21ラップ目に5位に浮上。この2台は白い水しぶきを上げながら上位グループとの差を縮めていきます。ミディアムタイヤを装着しているクルマより1ラップ約3秒速く、このまま行けばスバルとメルセデスAMGが上位グループに追いつくのは時間の問題と予想できます。

そしてその予想は的中。24ラップ目、スバルは3位に浮上し、そのわずか3.5秒先を走るトヨタ GRスープラとジェネシス X GR3の姿を捉えます。危機感を覚えたトヨタは、3回目のピットストップを行い、約25秒かけてウェットタイヤに交換。イチかバチかの賭けに出ます。フラガが運転席に飛び込むと、6位でコースに復帰。残り5ラップのレースで再び上位を狙います。2018年のネイションズカップ王者は、どんな走りを見せてくれるでしょうか。

ボボアは25ラップ目の第10コーナーでスバルとジェネシスを追い抜きトップに立ちますが、第11コーナーへの進入時にコントロールを失い、グラベルに進入してしまいます。このアクシデントによってメルセデス AMG GT3がコースアウト。ドルモンのスバルが総合首位に立ちます。

その後、トヨタのフラガが猛烈な追い上げを見せ、27ラップ目にはポルシェのセラーノを抜いて2位に浮上。スバルとトヨタの一騎打ちとなりました。このレースを制したものがシリーズチャンピオンに輝きます。

しかし、フラガはスバルに1.5秒差までしか迫ることができず、ドルモンにチェッカーフラッグが振られ、ついにスバルが2022年のマニュファクチャラーズカップのチャンピオンとなりました。両チームとも20ポイントで並んでいましたが、グランドファイナルを制したスバルがチャンピオンの座を獲得。スバルは3年ぶり2回目の優勝を果たしました。

レース終了後、チームスバルのドライバーからコメントが届きました。

キリアン・ドルモン選手: 「過酷な天候でしたが、それは仕方ありません。雨がまた降り始めた時、フルウェットタイヤを選択したのはそれが良い戦略だと思ったから。結果的にうまくいって良かったと思っています」。

宮園拓真選手:「私がスティントでスピンしたことが原因で10秒ほどロスしてしまったので、いいところがなかったのですが、キリアンとダニエルに助けられ、最終的にこの結果を出すことができました。本当に彼らのおかげだと感謝しています」。

ダニエル・ソリス選手:「2020年に優勝した時はステージに立つ機会がなかったので、今回チャンピオンとしてここに立っていることが信じられないくらいうれしいです。あの頃は少し落ち込みましたが、今は優勝できたことを本当に素晴らしく思います!」。

グランツーリスモ ワールドシリーズ 2022 マニュファクチャラーズカップ - ワールドファイナル
リザルト

Rank Manufacturer / Drivers Time
1 スバル キリアン・ドルモン / ダニエル・ソリス / 宮園 拓真 1:15:00.641
2 トヨタ ニキータ・モイゾフ / 國分 諒汰 / イゴール・フラガ + 02.596
3 メルセデスAMG ルーカス・ボネリ / バティスト・ボボア / 坪井 俊介 + 03.817
4 ポルシェ アンゲル・イノストローザ / ホセ・セラーノ / 佐々木 拓眞 + 04.805
5 ジェネシス 佐々木 唯人 / ニコラス・ロメロ / ディーン・ヘルト + 26.645
6 フォルクスワーゲン 鈴木 聖弥 / ロベルト・スターンバーグ / トーマス・ラブトレー + 30.262
7 マツダ 鍋谷 奏輝 / ジョルジョ・マンガーノ / アンドリュー・ブルックス + 32.445
8 ホンダ ヴァレリオ・ガロ / ジョアン・ペソア / マシュー・マキューエン + 33.950
9 レクサス クィンテン・ジュール / ドノバン・パーカー / 川上 奏 + 34.162
10 マクラーレン コンスタンティノス・コンスタンティノウ / 今里 駿斗 / イーサン・リム + 34.538
11 日産 マテオ・エステベス / メヒディ・ハフィディ / 奥本 博志 + 39.084
12 BMW ホセ・ブレア / 小高 侑己 / ランドール・ヘイウッド DNF