0.03秒差の決着。日本・宮園拓真選手が、地元オーストラリアのコディー・ラトコフスキ選手との激闘を制しWT初優勝
2020年のワールドツアー第1戦 in シドニー。BMWが完全優勝を達成したマニュファクチャラーシリーズの興奮冷めやらぬ中、現地時間2月16日に国・地域の代表選手による個人対抗戦「ネイションズカップ」が開催されました。
13の国・地域から集った24名のトップドライバーによる今大会のネイションズカップ。コディー・ラトコフスキ選手をはじめとした開催国オーストラリア出身選手たちに注目が集まる中、勝利を掴んだのは日本の実力選手、宮園拓真選手。決勝レース30周の果てに、トップ・宮園選手と2位・ラトコフスキ選手との差はわずか0.03秒という歴史的に残る激戦となりました。宮園選手はワールドツアー初優勝となります。
注目を集めたニューヒーロー誕生の行方
今シーズンのワールドツアーでは、ネイションズカップ選抜選手数が昨年までの36名から24名へと変更。またこれまで実施されていた敗者復活戦も姿を消し、予選→準決勝(12名×2グループ)→グランドファイナル(準決勝各グループ上位6名ずつ計12名による決勝)というシンプルな構造となりました。これにより、トップ選手による争いがさらに熾烈を増すことが予想されました。
そして今回、前々年度年間王者のイゴール・フラガ選手、前年度王者のミカエル・ヒザル選手がともに欠場。
フラガ選手は今回、シドニーの海の向こうのニュージーランドで行われているワンメイクフォーミュラシリーズ「Toyota Racing Series」への参戦のために、まさにこのワールドツアーと同日にレースを戦っていたのです。フラガ選手はこのレースを勝利し、見事シリーズチャンピオンを獲得!ワールドツアードライバーのこうしたドラマティックなニュースもあり、シドニーの会場でもニューヒーロー誕生の予感が高まります。
なおマニュファクチャラーシシリーズと同様に、ネイションズカップのトップ3にはワールドファイナルでの初期ポイントとなる「ワールドツアーポイント」が与えられます。
予選
午前に行われる全体予選の結果により、出場24名の選手は12名ずつ2グループに分けられ準決勝に臨みます。
全体予選はドラゴントレイル シーサイドが舞台。車両はRed Bull X2019 Competitionです。この予選でトップに立ったのは香港のジョナサン・ウォン選手。これに宮園選手、ラトコフスキ選手と続きアジア・オセアニア地区のドライバーたちが速さを見せます。
全体予選での上位から順に、準決勝A・Bグループのどちらに挑むかを選ぶことができますが、ウォン選手は準決勝Bグループへ、宮園選手は準決勝Aグループと、上位2名は走行組が分かれる展開に。そのほか選手もそれぞれ自らの戦略と照らし合わせながら各グループを選択しました。
待望のニューマシンも姿を現した準決勝
準決勝A・Bグループではそれぞれ上位6名が通過ライン。両グループ計12名が決勝戦グランドファイナルへと駒を進めます。
準決勝Aグループの舞台は京都ドライビングパーク-山際。周回数は13周、マシンはRE雨宮FD3S RX-7のワンメイクというセットです。スポーツタイヤ装着で、ソフト・ミディアム・ハード全種の使用が義務付けられました。
フロントローには宮園選手、そしてアダム・サスウィロー選手(英国)が並び、両者はともにスタートタイヤにソフトを選択。レーススタートからこのトップ2がソフトタイヤのグリップ力を生かし徐々に後続を引き離す展開が続いていましたが、最終的にAグループでトップチェッカーを受けたのは3位スタートのバティスト・ボボア選手(フランス)。
ボボア選手は終始安定したペースを保ちながら後半に柔らかいコンパウンドを温存する作戦で、これが見事に功を奏した形です。レース最終盤に宮園選手のピットインのスキにトップに躍り出ると、そのまま逃げ切りチェッカーフラッグ。決勝フロントローを勝ち取りました。
2位には宮園選手、3位ライアン・デルイッシュ選手(フランス)、4位サルバトーレ・マラグリーノ選手(イタリア)、5位コケ・ロペス選手(スペイン)、6位アダム・サスウィロー選手と続きます。
続いて準決勝Bグループ。このグループでは、『グランツーリスモSPORT』初登場となるニューマシン「アストンマーティンDBR9 GT1(2010)」に注目が集まりました。V12エンジンを搭載するレーシングカーで、『グランツーリスモSPORT』ではGr.3カテゴリーに相当するマシンとして登場が予定されています。
ブランズハッチGPサーキットを舞台に全17周で争われた準決勝ですが、ここでもジョナサン・ウォン選手が素晴らしい速さを見せ独走状態を築きます。最終的に1位ジョナサン・ウォン選手、2位にコディー・ラトコフスキ選手(オーストラリア)、3位パトリック・ブラザン選手(ハンガリー)、4位ダニエル・ソリス選手(アメリカ)、5位に菅原達也選手、6位マシュー・シモンズ選手(オーストラリア)までが準決勝通過を決め、これで決勝に進出する全12名の選手が決定しました。
歴史に残る大決戦-ネイションズカップ決勝 グランドファイナル
真の勝者を決めるグランドファイナルの舞台は、予選の再現となるドラゴントレイル シーサイドとRed Bull X2019 Competitionの組み合わせ。周回数は30周。ソフト・ミディアム・ハード全てのタイヤ使用が義務付けられており、給油も必須となる長丁場のレースです。
スターティンググリッドでポールポジションを獲得したのは、予選で最速ラップを記録しかつ準決勝グループBを1位で通過したジョナサン・ウォン選手。2番グリッドにボボア選手、3番ラトコフスキ選手、4番に宮園選手が続きます。
この上位4台のうち宮園選手のみスタートにハードタイヤを選択。それ以外の3選手は1stスティントをミディアムタイヤで臨む作戦。そしてこの後、次第に宮園選手の驚くべき戦略が明らかとなります。
レース序盤、ドライビングミスで順位を落としたボボア選手を上手くかわしたラトコフスキ選手は2位に浮上。ウォン選手を追いかける展開に持ち込みます。ウォン選手の後方にピタリとつけスリップストリームを使いながらショートシフトと燃料マッピングの調整で低燃費走行を続けるなど巧みな試合運び。静かに勝負の時をうかがいます。
そのいっぽう、全く異なるストラテジーを用意していたのが宮園選手です。レーススタート直後の1周目に早くもピットイン。ハードタイヤを脱ぎ捨てミディアムにチェンジします。
「このレースでは2ストップ作戦と3ストップ作戦がだいたい同じような速さになることがわかっていたのですが、2ストップだと途中集団の中での走行になるかなと思い、3ストップを選んで単独で自分のリズムを作り走ろうと思いました」と宮園選手。
多くの選手が2ストップ作戦を選択する中、3ストップでソフトタイヤを2度に分けて選択する作戦に出た宮園選手。
確かに単独走行時間を長くとることができますが、言いかえればほぼ全周回でアタックラップを続けていかなければ上位にチャレンジすることが難しく、それだけドライバー自身が速さと集中力とを兼ね備えていなければならない作戦でもあります。
信じられないようなファイナルラップ
トップを走るウォン選手、それをピタリ追うラトコフスキ選手。オーソドックスな2ストップ作戦をベースに1分21秒台での周回を重ねるハイレベルな戦いが続けられました。宮園選手はミディアムタイヤで8周を走り終えたところでソフトタイヤにスイッチ。上位陣のはるか後方ではありますが、立て続けに1分19秒台を出すなどフルアタックを続けます。
14周目でウォンを捉えトップに立ったラトコフスキ選手は15周目の終わりに最初のピットイン。ハードタイヤにチェンジしますがこの硬いコンパウンドの使用は2ラップに抑えすぐさま2度目のピットへ。いよいよ18周目からソフトタイヤを投入。ここからファイナルラップまで走り切る作戦です。
いっぽう宮園選手は19周目を終えたところで3回目のピットイン。再びフレッシュなソフトタイヤを投入します。21周目に入ると、ラトコフスキ選手とその後方を走る宮園選手の差は5秒ほどにまで迫ってきていました。
宮園選手より2ラップほど先に最後のソフトタイヤ投入を実施していたラトコフスキ選手は、ソフトタイヤでのスティント後半に勝負所が訪れることに。宮園選手の3ストップ作戦は完璧に機能しているように見えました。
26周目、トップを走るラトコフスキ選手と宮園選手のタイム差はついに1秒を切ります。宮園選手のすぐ後ろにつけ勝負のアヤにドラマをもたらすかと思われた3位のブラザン選手がデス・シケインで単独ミスを起こしてしまい、勝負の行方は、完全にラトコフキと宮園の2人に絞られました。ここからしばらくインターバル1秒以内の緊張のバトルが続きます。
時が訪れたのは29周目。ソフトタイヤの余力を残す宮園選手がついに1コーナーでラトコフスキ選手の前に出ます。しかし地元の大声援を受けるラトコフスキ選手もグリップの限界を超えたところで信じられないようなテクニックを見せ、宮園選手に追いすがります。
全ての努力と才能が解き放たれた最終ラップ。両者ともにお互いの走行ラインに最大限の敬意を払いながらまれに見る接近戦が繰り広げられます。デス・シケインで宮園選手のスリップに入ったラトコフスキ選手。残す最後のヘアピンでは、両車一歩も譲ることなく全くの横並びでの立ち上がり。信じられないような光景に、Luna Park内の特設会場は最高潮の興奮に包まれたのでした。
肉眼での差はほぼないように見えた両車のチェッカー直後、わずか0.029秒差で宮園選手が勝利を収めたことが明らかに。宮園選手にとっては嬉しいワールドツアー初優勝となりました。
地元のラトコフスキ選手は惜しくも勝利を手にすることは叶いませんでした。悔しさをにじませながら、しかし大声援を送ってくれた多くの地元のファンに感謝を述べるとともに「今回は走りも作戦も悪くはなかったと思いますが、またレースのリプレイを見て足りなかったことを勉強したいと思います」とコメント。その視線の先には早くも次なる勝負が見えているようです。
3位に飛び込んだのはジョナサン・ウォン選手。今回はこの上位3名がワールドツアーポイントを獲得。ワールドファイナルへ向け弾みをつけたかたちとなりました。
二日間にわたり開催されたFIA グランツーリスモ チャンピオンシップ ワールドツアー第1戦 in シドニーではマニュファクチャラーシリーズ、ネイションズカップともに新たなウィナーが誕生しました。3月半ばより、第2戦以降のワールドツアーに向けたオンラインレースシリーズもスタートします。今シーズンのFIA グランツーリスモ チャンピオンシップも引き続きぜひご期待ください。
ワールドツアー第1戦 in シドニー
ネイションズカップ リザルト
Rank | Driver | Time |
---|---|---|
1 | 宮園 拓真 Kerokkuma_ej20 | 41:34.986 |
2 | コディー・ラトコフスキ Nik_Makozi | +00.029 |
3 | ジョナサン・ウォン CAR_Saika | +05.699 |
4 | サルバトーレ・マラグリーノ JIM_Pirata666_ | +07.722 |
5 | 菅原 達也 blackbeauty-79 | +07.866 |
6 | コケ・ロペス Williams_Coque14 | +08.943 |
7 | アダム・サスウィロー Williams_Adam41 | +09.795 |
8 | ライアン・デルイッシュ Veloce_Miura | +12.377 |
9 | ダニエル・ソリス CAR_Lamb | +15.061 |
10 | バティスト・ボボア Veloce_TsuTsu | +20.373 |
11 | パトリック・ブラザン Williams_Fuvaros | +31.229 |
12 | マシュー・シモンズ MINT_Matt | +53.710 |