ニュル24時間レース2010 レースレポート(1/3)
今年起きた大きな変化
例年ならば、ニュルブルクリンクの5月はラベンダーの花が咲き誇る美しい季節。ところが今年は真冬のような寒さが居座り、垂れ込めた雲から冷たい雨が落ちてきます。
しかし、24時間レースが近づくにつれて、サーキット周辺には陰鬱な寒さを吹き飛ばす熱気が満ちてくるのが分かります。レースウィークを迎えた月曜日にはキャンプサイトが観客のキャンピングカーで埋まり始め、ポルシェの本拠地バイザッハからは、公道仕様のまま参戦する911GT3 RS(ゼッケン11)が自走でサーキット入りを果たしました。1周25kmに渡り20数万人が熱狂する祭典が、まもなく始まるのです。
「グランツーリスモ」はこの偉大なレースを2006年以来サポートしてきました。その想いに今年も変わりはありませんが、一方で大きな変化も起きました。それは「グランツーリスモ」シリーズ・プロデューサーである山内一典が、レーシングドライバーとしてこのレースに関わるということです。
山内が所属するのは、昨年この地で4時間レースを戦い、見事クラス優勝を果たした「ワールド・カー・アワード」チーム。進化し続ける自動車のテクノロジーやデザインのイノベーションを称えて、毎年イヤーカーを選出する国際的な自動車評価団体です。ドライバーはいずれもその選考委員。山内に加えてレーシングドライバーの松田秀士さん、ジャーナリストのピーター・ライオンさん、そしてイギリス「オートエクスプレス」誌のテスターでもありレーシングドライバーでもあるオーウェン・ミルデンホールさんという4名が、24時間を戦う「盟友」です。
マシンも昨年の4時間レースと同じレクサスIS Fですが、その後さらに数戦のレースを戦い、戦闘力が大きく向上しました。リアフェンダー拡幅により大径スリックタイヤが装着可能になり、冷却系を見直したことでパワートレインの余裕が向上しました。フロントスポイラーを大型化したことでアンダーステアも軽減。なによりもその効果はラップタイムに現れ、昨年夏よりもなんと30秒も速いマシンへと進化したのです。
天候に苦しめられる予選
すべての準備が整い、ニュルブルクリンクが巨大な「レース村」と化した5月13日(木)、夜7時半から1回目の予選が始まりました。しかし天候は相変わらずの雨。各チームは暖まらないタイヤと判断の難しい路面に悩み、好タイムが記録できません。そんな中暫定トップに立ったのはフリー走行から快調だったフェラーリF430(ゼッケン43)。とはいえタイムは奮わず9分20秒552という記録です。
「ワールド・カー・アワード」チームも、この予選は凡庸なタイムに留まりました。深夜11時半、走行が終了するとすぐさまチームはミーティングを開き、問題点を洗い出します。姿勢制御をつかさどるVDIMのセッティング、ウェット時の足回り、メーターの視認性、ライトの配光、無線の交信範囲などが課題となり、すぐさまメカニックたちが対応に取りかかりました。
明けて金曜日。正午過ぎから2度目の予選がスタート。一瞬雨が止みコースのレコードラインが乾き始めました。すかさず王者マンタイ・ポルシェ(ゼッケン1)がコースインし、昨日の鬱憤を晴らす8分30秒323をマークします。ところが今年のニュルには強豪がひしめいていました。アウディが投入した7台のR8 LMSが続々とタイムを更新、結局4位までをR8 が独占するという事態に。ポールポジションはチームABTのR8(ゼッケン100/8分24秒753)、マンタイ・ポルシェは7位という異変が起きました。
「ワールド・カー・アワード」チームもこの予選でタイムアップを狙いましたが、直前になって燃料ポンプの異常が発生。修理を終えてオーウェン選手がコースインしましたが、コース上で症状が再発しスローダウン。マシンはメカニックの手でピットに戻される結果となります。